研究開発担当者は粒子特性評価手法を用いることで、最終製品の性能や製造プロセスに影響を与える主要な粒子特性を深く知ることができます。開発段階で確立された評価手法は、その後製造プロセスへと展開され、各種パラメータが適切に管理・測定されることで、製品の製造安定性と有効性が確保されます。
長年にわたり、粒子サイズは最も重要な特性評価項目の一つとして用いられてきました。従来から確立されている多くの粒子サイズ測定法は、すべての粒子が球形であることを前提とした間接測定技術です。しかし、実際の工業用粒子の多くは不規則な形状をしており、サイズ情報のみで十分な特性評価が行えるかどうかには限界がありました。
不規則な粒子形状は、粒子間の相互作用、流動性、圧縮挙動に大きく影響し、最終製品の性能や品質に大きく左右します。この課題に対応するため、科学者たちは早くから顕微鏡観察などの直接測定技術を活用し、粒子のサイズと形状を同時に評価する手法を発展進化させてきました。
顕微鏡による評価は時間と手間を要しますが、原材料粒子の形状や状態を視覚的に確認できるという大きな利点があります。このような直接的な情報は、粒子挙動の理解を深め、より精度の高い材料設計やプロセス最適化に貢献します。
粒子形状解析における画像解析技術の発展
粒子形状に画像解析を応用する試みは、1963年に初めて本格的に探求されました。当時、地質学者向けに提案された「クランバインスケール(Krumbein Scale)」は、粒子の丸みや球状度を標準化して評価することを目的とした指標です。この手法は、紙に印刷された粒子形状の参照画像と実際の粒子を目視で比較する視覚的な方法であり、評価には一定の主観が含まれていました。
それでもなお、この尺度が長年にわたり用いられてきたことは、粒子形状の理解と認識が粒子サイズと同様に重要な特性であることを、早くから認知されていたと言えます。時代と共に、科学者たちは顕微鏡観察を通じてごく少数の粒子を詳細に観察し、形状特性をより深く理解するようになりました。
1990年代初頭になると、マシンビジョンカメラの高性能化とコンピュータ処理能力の飛躍的な向上により、粒子形状解析は大きな進化を遂げます。これにより、さらに標準化された手法で、且つ大量の粒子を対象とした形状解析が可能となりました。画像解析技術は、粒子が静止状態であっても、流動中であっても適用でき、現在では高速かつ高精度な画像処理によって粒子形状を定量的に評価することに実現しました。
動的画像解析(Dynamic Image Analysis)はどのように機能するのか
動的画像解析は、短時間で大量の粒子を測定できる高速な粒子解析技術です。数秒から数分の測定時間で、数万個の粒子を個別に解析することができ、統計的に信頼性の高いデータを取得できます。
測定時には、粒子を液体中に均一に分散・懸濁させた状態で、フローセル内を連続的に流します。粒子は流れに乗ってフローセルを通過し、その間に測定が行われます。
フローセルの一方には安定した照明光源が配置されており、セル全体を透過照明します。反対側には高性能レンズとデジタルカメラが設置されており、流れてくる粒子を連続的に撮像(撮影)します。この際、粒子は背景光に対して暗いシルエット(シャドウイメージ)として捉えられます。
取得された粒子画像はグレースケール形式でコンピューターへ送信され、専用ソフトウェアによって自動解析されます。各粒子は個別に識別され、粒子サイズ、形状、個数、分布などの多様なパラメータが同時に算出されます。
このように動的画像解析は、大量粒子を実測に基づいて直接評価できる、信頼性の高い粒子特性評価手法として、研究開発から品質管理まで幅広く活用されています。
動作原理
1.サンプル
湿潤状態または乾燥状態の粒子を、制御された一定流量で測定システムに充填します。安定したサンプル供給により、再現性の高い測定が可能です。
2.照明
高輝度のLEDまたはハロゲン光源を使用し、粒子の輪郭を明確に捉えるための最適なコントラストを形成します。
3.画像取り込み
高速デジタルカメラが流動中の各粒子を連続的に撮影し、流れの中であっても鮮明でブレのない粒子画像を取得します。
4.自動解析
取得された粒子画像は高度な解析ソフトウェアによって自動処理されます。各画像はバイナリ形式に変換され、設定された拒否条件やしきい値が適用されます。その後、生成されたバイナリピクセル画像を基に、32種類の粒子形状パラメータ(サイズ・形状・輪郭特性など)が算出されます。
同時に、測定されたすべての粒子はサムネイル画像として保存され、後から個々の粒子を目視確認できるため、解析結果の客観的なエビデンスとして活用できます。
動的画像解析における撮像の基本概念
動的画像解析はカメラ技術を用いて粒子を直接撮像・解析する手法であるため、画像撮影に関する基本的な光学概念を理解することが重要です。ここでは、特に重要な「視野(Field of View)」と「被写界深度(Depth of Field)」について説明します。
視野(Field of View:FOV)
視野(FOV)とは、粒子が測定されるイメージングゾーン内の撮像範囲(X・Y方向の面積)を指します。
FOVの大きさは使用するレンズの倍率によって決まり、倍率が高くなるほど視野は小さくなります。これは、カメラで被写体をズームインすると撮影範囲が狭くなり、対象が大きく写るのと同じ原理です。
十分な倍率で撮像すると、粒子が画像上で大きく表示され、粒子の輪郭に割り当てられるピクセル数が増加します。粒子形状はこれらのピクセル情報を基に算出されるため、ピクセル数が多いほど解像度が向上し、形状解析の精度も高まります。
一方、倍率を下げる(ズームアウトする)と視野は広がりますが、粒子は小さく写り、形状解析に使用できる情報量は減少します。
被写界深度(Depth of Field)
被写界深度とは、カメラから見てピントが合っている最も近い位置から最も遠い位置までの範囲を指します。動的画像解析では、この被写界深度内にある粒子のみが有効な測定対象となり、ピントが外れた粒子は自動的に解析対象から除外されます。
被写界深度は主にレンズの絞り径(絞り値)によって制御されます。絞りを絞る(絞り値を大きくする)ことで被写界深度は深くなり、より多くの粒子を確実にピント内で撮像できます。これは、斜め方向からの光が制限され、像面に到達する光線が整理されるためです。
動的画像解析においては、十分な被写界深度を確保することが測定精度の安定化に直結します。そのため、装置メーカーは光学設計において、常に最大限の被写界深度が得られるよう最適化を行っております。
遠近誤差とテレセントリック光学による補正
動的画像解析において最後に理解しておくべき重要な光学要素が、遠近誤差とその補正方法です。
遠近誤差とは、被写界深度が広い場合に、カメラからの距離の違いによって同じ大きさの粒子が異なるサイズに見えてしまう現象を指します。ピントが合っている範囲内であっても、カメラから遠い位置にある粒子は、近い位置にある粒子よりも小さく写ることがあります。
これは、日常的な写真撮影において、遠くにある物体が小さく見えるのと同じ原理です。両者が被写界深度内にあり、どちらも鮮明に見えていたとしても、距離の違いによる見かけのサイズ差が生じます。
この遠近誤差を補正しない場合、視野内や被写界深度内を流れる粒子が、実際には同じサイズであっても、位置の違いによって異なる粒径として誤って報告されてしまいます。
そのため、多くの高性能な動的画像解析装置では、テレセントリック光学系を採用しています。テレセントリック光学は、撮像範囲内で倍率が距離に依存しない特性を持ち、粒子が撮像面のどの位置や深さに存在していても、常に同一スケールで撮影することが可能です。
この光学設計により、動的画像解析では遠近誤差が効果的に補正され、被写界深度全体にわたって正確で信頼性の高い粒子サイズ・形状測定が実現されます。
ここまでで動的画像解析の仕組みをご理解いただきましたが、次に重要なのは、それが実際のエンドユーザーにどのような価値をもたらすのかという点です。
粒子特性評価において、最も一般的に用いられてきた指標は粒子サイズです。従来の多くの粒子サイズ測定手法では、測定対象となる粒子がすべて同じ形状(主に球形)であることを前提として、サイズ結果が報告されます。
しかし、実際の原材料や工業用粒子の多くは、形状や大きさが不均一であり、平均粒径や単一のサイズ指標だけでは粒子の実態を十分に把握できない場合があります。
動的画像解析は、粒子一つ一つを個別に測定する数値ベースの解析手法であるため、従来法と比較してはるかに多くの情報を提供します。その代表的な例が、個数基準分布と体積基準分布の両方を同時に取得できる点です。
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個数基準の粒子サイズ分布は、サンプル中に存在する粒子の個数に基づいた分布であり、微細粒子の存在や割合を正確に把握することができます。
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体積基準の粒子サイズ分布は、粒子の体積寄与を反映した分布で、少数でも影響の大きい粗大粒子や凝集体を的確に評価するのに適しています。
このように動的画像解析は、粒子サイズ分布を多角的に捉えることを可能にし、従来の測定では見落とされがちであった情報を可視化します。その結果、品質管理の高度化、プロセス理解の向上、製品性能の安定化といった、エンドユーザーにとって実用的かつ価値の高い情報を提供します。
個数基準分布と体積基準分布
動的画像解析は、粒子を1つずつカウントして測定するカウントベースの手法です。そのため、粒子サイズの統計データを個数基準分布および体積基準分布の両方で報告することが可能です。
個数基準分布は、試料中に存在する粒子の個数に基づく分布であり、微細粒子の存在や割合を明確に可視化するうえで非常に重要です。
一方、体積基準分布は、粒子の体積寄与を反映した分布で、凝集体や粗大粒子など、少数であっても影響の大きい粒子の存在を的確に把握することができます。
これら2種類の分布は、動的画像解析において常に算出・報告され、サンプルの粒子特性を多角的に評価することが可能です。さらに、測定結果をふるい分け結果と相関させて表示できるため、従来のふるい分析データと自動動的画像解析の結果を直接比較することができます。これにより、既存の評価手法から新しい測定技術へのスムーズな移行やデータの置き換えが容易になります。
下図は、研磨粒子を対象とした数値加重および体積加重の粒子サイズ分布結果を示しています。
ここで用いられている形状モデルは、粒子を球状(丸い粒子)と仮定してサイズを算出しております。動的画像解析の結果を、レーザー回折などのサイズのみを測定する他の測定手法と比較する際に、一般的に用いられています。図からも分かるように、個数基準分布と体積基準分布のヒストグラムは大きく異なる形状を示しています。
個数基準ヒストグラムは、試料中に存在するすべての粒子を個数ベースで反映するため、微細粒子の存在や割合を明確に把握することができます。用途によっては、この情報が非常に重要となります。例えば、ろ過工程を含むアプリケーションでは、多数の微細粒子がフィルターを短時間で目詰まりさせる原因となるため、特に注意深い管理が必要です。
一方、体積基準ヒストグラムは、粒子の体積寄与に基づいて分布を表すため、粗大粒子や凝集体など、少数でも影響の大きい粒子の存在を的確に示します。大きな粒子や凝集物の混入が製品品質やプロセス安定性に影響を与える場合、この分布は欠かせない評価指標となります。
このように、動的画像解析では、個数基準と体積基準の両方の分布を確認することで、用途に応じた本質的な粒子特性を把握することが可能です。
動的画像解析は、個々の粒子を直接測定するカウントベースの手法です。そのため、粒子サイズや形状だけでなく、粒子数および粒子濃度の測定が可能です。粒子濃度は1 mLあたりの粒子数としてリアルタイムで表示されます。
解析終了後には、測定された粒子の総カウント数が報告され、試料全体だけでなく、特定の粒径や形状タイプに分類した粒子のみを選択して計数することも可能です。
この機能は、出現頻度の低い粒子帯を含む試料の評価や、特定の粒子集団・サブ集団の濃度レベルを把握したい場合に、非常に有効な評価手段となります。なお、測定時に希釈係数を自動的に考慮し、試料の事前希釈を反映した正確な濃度値が算出されます。
動的画像解析の非常に重要な特長の一つは、統計的に疑わしい粒子を実際の画像として確認できる点にあります。
サイズのみを測定する従来の手法では、統計的ヒストグラムは表示できても、そのヒストグラムを構成している粒子そのものを確認することはできません。そのため、外れ値や異常値が含まれていても、データの妥当性を視覚的に検証することが困難でした。
一方、動的画像解析では、サイズ分布や形状分布の任意の領域を選択し、その領域を構成する粒子の実画像を直接確認することが可能です。これにより、異常粒子、凝集体、破砕粒子、異物などの存在を直感的かつ客観的に把握できます。
この「データと画像を結び付けて確認できる」機能は、動的画像解析ならではの特長であり、測定結果の信頼性を裏付ける客観的な証拠をエンドユーザーに提供します。その結果、粒子特性評価における判断の正確性と安心感が大きく向上します。
動的画像解析では、粒子サイズに加えて形状情報も同時に取得できるため、エンドユーザーは異なるロット間や、分析条件の異なる測定結果を多角的に比較することが可能で、動的画像解析を用いることで、サイズ分布だけでは見逃されがちな形状の変化やばらつきも明確に把握でき、より信頼性の高い品質評価やプロセス管理を実現します。
オーバーレイ形状比較・エクセル自動出力
実際のサンプルでは、粒子サイズがほぼ同じであっても、形状に大きな違いが存在するケースは少なくありません。こうした形状の違いは、流動性、分散性、反応性、充填性などの物性に影響を与える重要な要素となります。
相関プロット
相関プロットを使用することで、解析された全ての粒子を視覚的に把握でき、稀な事象や異常粒子を効率的に特定することができます。数万個に及ぶ粒子を測定する動的画像解析において、この機能がなければ、特定の粒子や凝集体を見つけ出すことはほぼ不可能です。
相関プロットは、サイズ、円形度、アスペクト比、長さ、幅など、任意の2つの形状指標を組み合わせて作成でき、粒子群の分布傾向や外れ値を直感的に把握できます。これにより、品質管理や工程監視において重要な粒子特性を、視覚的かつ客観的に評価することが可能になります。
粒子分類を可能にする多次元形状解析
動的画像解析では、1粒子あたり32の形状パラメータを同時に測定できるため、個々の粒子を高い精度で識別することが可能です。これにより、粒子同士のわずかな違いも明確に区別できます。
特に、複数成分を含むサンプルでは、すべての粒子に共通して豊富な形状指標が付与されるため、形状やサイズの特徴に基づいた粒子の自動分類が行えます。粒子分類とは、サンプル中に存在する異なる粒子群を分離・可視化し、それぞれを定量的に評価する機能です。
この機能により、異物混入の検出、原料のばらつき評価、工程変動の把握など、より高度で信頼性の高い粒子解析が可能になります。